6.妙な夢体験 Part.2

唐突に、

闇の中に浮かんでいた。

何も見えない。聴こえない。体がない。

意識だけはどこかにつながっているようだ。

脳がないのに、どこで考えているんだろう。

微塵の物質も見つけられない、果てのない暗黒の空間。

自分の意識が、ただ在るだけなのだ。

しばらく、といっても「時」という観念すらないが、

在りもしない身を任せていた。

そうするしかない。

   ◆

いつのまにか、はるか下方に蒼い星が輝いている。

遠くて小さいのに、蒼い光がシャープで眩しい。

ほどなく、意識の背部に柔らかな白い光を感じた。

月のようでもあるが、わからない。

対照的なふたつの光。

その空間は、安寧で、静寂だった。

   ◆

どれくらいそこにいたのだろう。

どこからともなく音声が聴こえてきた。

その音声は遠くから徐々に近づいてくる。

倍速再生音のように早口で、どこの国(星)の言葉かわからない。

一定の間隔を保ちながら、長いセンテンスを繰り返している。

いきなり、門が現れた。

色は茶系、デジタルイラスト調で薄っぺらい。

画面で見ている感覚だ。

門は両開き自動ドアのように閉じたり開いたりしている。

開閉のリズムは、音声の長さと速度にぴったり合っている。

   ◆

「この門が閉まると、私はここに存在できなくなる。」

意識がそのように悟った。

ふと、自分が呼吸していることに気づいた。

同時に、息苦しさを感じた。

体がないのに視覚や聴覚、呼吸苦など矛盾しているが。

しかし、徐々に呼吸が浅く早くなるのがわかる。

繰り返される音声の、センテンスが短くなってきた。

それに合わせて、門の開閉は2倍速になり、4倍速になり、

・・・

音が消えた。

門が、閉じられた。

「落ちる!」

「いやだ!ずっとここにいたい!」

初めて感情が現れた。

この「感情」には、ずっしり重い質量があった。

もうすぐ落ちる、という、「時」の観念もはっきり現れた。

全身?の力を振り絞り、もがき、抵抗しようとした。

その瞬間、はるか下方の蒼い星に勢いよく吸い込まれた。

ほんとうに瞬時のことだった。

   ◆

冴えない意識と、鉛のような肉体が、硬いベッド上にあった。

あの音声が、いつまでも脳内を反芻していた。

   ◇

上記の夢体験をしたのは、22歳と24歳の2回。出産の時なんです。

睡眠時ではなく、分娩の際の麻酔から覚めるまでの間の夢。

睡眠時の夢とは別の類ですが、2回とも寸分違わぬ内容でした。
2年も空いているのに。

それにしても、あの吸い込まれる恐怖は、この世のものではありません。

息子誕生の歓びと、夢の後味悪さが混ざり合い、なんとも複雑な心境でした。

前々回の記事「妙な夢体験」もそうでしたが、内容もさることながら、全く同じ夢を複数回見ることも、また、不思議なのです。

夢の中で前の内容を覚えている、ということも。

一体何が、脳の階層のどこを刺激しているのでしょうか?

この夢は、バカボンブログのアルザル語vol.2にある、長〜い挨拶文や技術単語を眺めていて、ふと思い出したのです。