唐突に、
闇の中に浮かんでいた。
何も見えない。聴こえない。体がない。
意識だけはどこかにつながっているようだ。
脳がないのに、どこで考えているんだろう。
微塵の物質も見つけられない、果てのない暗黒の空間。
自分の意識が、ただ在るだけなのだ。
しばらく、といっても「時」という観念すらないが、
在りもしない身を任せていた。
そうするしかない。
◆
いつのまにか、はるか下方に蒼い星が輝いている。
遠くて小さいのに、蒼い光がシャープで眩しい。
ほどなく、意識の背部に柔らかな白い光を感じた。
月のようでもあるが、わからない。
対照的なふたつの光。
その空間は、安寧で、静寂だった。
◆
どれくらいそこにいたのだろう。
どこからともなく音声が聴こえてきた。
その音声は遠くから徐々に近づいてくる。
倍速再生音のように早口で、どこの国(星)の言葉かわからない。
一定の間隔を保ちながら、長いセンテンスを繰り返している。
いきなり、門が現れた。
色は茶系、デジタルイラスト調で薄っぺらい。
画面で見ている感覚だ。
門は両開き自動ドアのように閉じたり開いたりしている。
開閉のリズムは、音声の長さと速度にぴったり合っている。
◆
「この門が閉まると、私はここに存在できなくなる。」
意識がそのように悟った。
ふと、自分が呼吸していることに気づいた。
同時に、息苦しさを感じた。
体がないのに視覚や聴覚、呼吸苦など矛盾しているが。
しかし、徐々に呼吸が浅く早くなるのがわかる。
繰り返される音声の、センテンスが短くなってきた。
それに合わせて、門の開閉は2倍速になり、4倍速になり、
・・・
音が消えた。
門が、閉じられた。
「落ちる!」
「いやだ!ずっとここにいたい!」
初めて感情が現れた。
この「感情」には、ずっしり重い質量があった。
もうすぐ落ちる、という、「時」の観念もはっきり現れた。
全身?の力を振り絞り、もがき、抵抗しようとした。
その瞬間、はるか下方の蒼い星に勢いよく吸い込まれた。
ほんとうに瞬時のことだった。
◆
冴えない意識と、鉛のような肉体が、硬いベッド上にあった。
あの音声が、いつまでも脳内を反芻していた。
◇
上記の夢体験をしたのは、22歳と24歳の2回。出産の時なんです。
睡眠時ではなく、分娩の際の麻酔から覚めるまでの間の夢。
睡眠時の夢とは別の類ですが、2回とも寸分違わぬ内容でした。
2年も空いているのに。
それにしても、あの吸い込まれる恐怖は、この世のものではありません。
息子誕生の歓びと、夢の後味悪さが混ざり合い、なんとも複雑な心境でした。
前々回の記事「妙な夢体験」もそうでしたが、内容もさることながら、全く同じ夢を複数回見ることも、また、不思議なのです。
夢の中で前の内容を覚えている、ということも。
一体何が、脳の階層のどこを刺激しているのでしょうか?
この夢は、バカボンブログのアルザル語vol.2にある、長〜い挨拶文や技術単語を眺めていて、ふと思い出したのです。